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『脱学校の社会』(1)

11-1studio

Updated: Mar 22



'Deschooling Society'はオーストリアの文明批評家 イヴァン・イリイチによって1971年に発表された著書である。

教育論の本かと思いきや、産業論やそれに付随する制度論が根底に流れており、教育とそれらが結びつけて語られる、非常に面白い著書だった。

そう、産業と教育を結びつける視点。

あまり自分自身が教育論の本を読んだことがないので断定はできないのだけど、この視点はあまりなく、実は現代の諸問題の本質を突いてるように思った。



<学習のためのネットワーク>

6章「学習のためのネットワーク」の章がこの著書の一番の論点であるように感じたので、まずはその部分。


イリイチは現状の「制度化された学校」に代わるものとして、「四つのネットワーク」という言葉で次を挙げている。


p146-l2
四つのネットワーク
1.教育的事物等のための参考業務
'正式の学習に用いられる事物や、過程の利用を容易にする。''教育用に用いる目的で''図書館とか賃貸業者とか実験室、あるいは博物館や劇場のような観覧施設に保管しておく''その他のものは、日常は工場、飛行場あるいは農園で利用されているが、学生が見習いとして利用するとか、休憩時間中に利用することなどができるようにされる。'
2.技能交換
'人々が自分の技能を登録したり、その技能を習得したいと思う他の人々のために、自分が進んでモデルとして奉仕するときの条件や''連絡の取れる住所を登録するのを認める。'
3.仲間選び
'人々が学習仲間を見つけるために、自分のしたいと思う学習活動を記すのを認めるコミュニケーションのためのネットワーク'
4.広い意味での教育者のための参考業務
'すべての教育者は、住所氏名録に自分の住所のほか 自分がサービスを提供する際の条件、自分が専門職業家であるとか''また自由業者であるとか''記録しておくことができる'

これは「制度化された学校」が提供する閉鎖的で独占的で一方通行の学びとは逆で、開かれていて自主的・双方向的な教え合い・学び合いを実現するためのモデルである。


ここで面白いのは、「技能」のあり方に軸が置かれていることである。

例えば 1.教育的事物等の参照業務ではいわゆる「教材」をオープンにアクセシブルにすることが書かれている。ただしこの「教材」の指すところは、教育のために特別にアレンジされたものだけではなく、農具であったり工作機械であったりと、社会・産業そのものの中に在るもの全般を指している。


p148-l1
'彼らの理解を妨げる二つの障壁を突き破らなけらばならない。''一つは事物の中に組み入れられた障壁''他一つは制度を囲んでいる障壁'
'工業デザインは、その本質を見抜きにくいようなたくさんの事物を作り出したし、学校は有意義な状態にある多くの事物の世界から学習者を締め出してしまっている。'
'工業の発達によって、人々はその内部の働きについては専門家でなければわからないような人工の所産にとり囲まれてしまった。専門家でないものは、もし彼がいじれば故障するかもしれないと警告されており''理解しようとする気持ちをくじかれてしまっている。'

この弊害の原因を学校のみに見出すのはいささか乱暴な気もするが、特に後半の部分は個人的にとても共感する部分がある。

それは例えば以前のブログ

で書いたようなことである。

仕組みや「つくる」行為をブラックボックス化することで、自分で仕組みを理解したり工夫したりする意欲を削がれた「消費者」を増やし、何の疑問も抱かせずただ供給されるサービスや製品を消費し続けるように仕向けるような一種の制度が存在しているということだ。


その最たる例を、イリイチは学校教育やその教材産業に見出しているのである。

'教育上の材料は学校に独占されてしまっている。簡単な教育用の事物が知識産業によって高価に包装されている。'
'人々は単に教具を自由に使えなくなっているだけではない。彼らはまた現代の機械類の中身を知ることができなくなっている。1930年代には、自尊心のある少年なら誰でも自動車の修理方法を知っていた。しかし、現在では、自動車のメーカーは配線を複雑にし、専門の機械工以外のあらゆる人々からその手引書を取り上げてしまう。'

つづく

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